長野県松本市が脱炭素先行地域を辞退へ
長野県松本市はこのほど、脱炭素先行地域を辞退する方針を明かした。脱炭素先行地域の辞退は、奈良県三郷町、兵庫県姫路市に続き3例目となる。(本誌・中馬成美)
2022年4月に脱炭素先行地域に採択された長野県松本市は、標高600~1500mの山々に囲まれた安曇地区の観光地、乗鞍高原に太陽光発電や小水力発電を導入する計画だった。具体的には、乗鞍高原の大野川区に出力674kWの小水力発電設備を導入しつつ、乗鞍高原内の宿泊施設や住宅の屋根に計900kW程度の太陽光発電設備を導入するというものだった。
松本市は24年8月に指名型プロポーザルで小水力発電の事業者を決定したが、スケジュールの調整が難しいとの理由で事業者から辞退の申し出があった。24年12月に実施した公募型プロポーザルでは別の事業者が手を挙げたが、これも有識者などからなる市の小水力発電事業者選定実行委員会からスケジュールに懸念があると判断され、結局、25年3月に小水力発電の導入計画は白紙にせざるを得なくなった。
そこで市は代替案として、当初の太陽光発電の導入計画とは別に、2.8MWの太陽光発電と蓄電設備を導入する計画を立てた。山間部の乗鞍地域には計画規模の太陽光発電を導入する適地がないため、松本市内に地上設置型や屋根設置型の太陽光発電を置き、乗鞍高原エリアに電力を供給することにしたのだ。だがこれにも無理があった。電力供給の担い手は24年8月に設立されたばかりの地域新電力会社、松本平ゼロカーボンエネルギー(MZCE)だったが、蓄電池を含めた需給管理の体制が整っておらず、最終の代替案も断念せざるを得なかった。
辞退の経緯について、松本市環境エネルギー部環境・地域エネルギー課の鈴木博史課長は、「22年の計画時と比べ、小水力発電の事業費は4割ほど増えていたし、水力発電は事業化まで最短でも5年はかかるので、難しいと判断した。また、計画時はコロナ禍の影響で観光業が厳しく、地元企業を中心に再エネ事業による地域活性化にこだわっていたが、その後、状況が変わった面も関係している」と語った。
もっとも、松本市は25年2月の環境省の中間評価で、事業の実現可能性に課題のある地域とされ、再評価を控えていたが、これについて鈴木課長は、「25年秋の中間評価では、ほとんどの項目で評価を受けられないことが見通せていた」と明かす。
市は25年6月、環境省に計画が難航している旨を伝え、辞退について合意し、7月29日に市議会で了承を得た。9月に地元で説明会を開き、正式に辞退する。
一方で、すでに交付済みの補助金1.4億円は乗鞍高原内の宿泊施設や住宅への太陽光発電設備などの導入に使い、設備はほぼ導入済だ。これらの取り扱いは環境省との協議のうえ、決めるという。
鈴木課長は、「脱炭素先行地域づくり事業はうまくいかなかったが、乗鞍高原は21年に国立公園で脱炭素化を先行して行う環境省の〝ゼロカーボンパーク〟に登録されている。乗鞍高原の方々と話をしながら、可能性のある限り、脱炭素化を進める」と前向きに語る。
脱炭素先行地域に採択された自治体のなかには、様々な理由で計画が難航しているところもある。知見やノウハウが乏しければ、計画の軌道修正も難しいはずだ。何らかの支援体制が必要だろう。
松本市は乗鞍高原エリアでの脱炭素化を進めていた。写真は今後建て替えてZEB化を進める予定の乗鞍観光センター