ESI土肥社長が語る

PPAモデルの可能性

様々な再エネ商材を扱うヨーロッパ・ソーラー・イノベーションの土肥社長が、ドイツの事情に照らし合わせて、PPAモデルの可能性について語った。

プロフィール●土肥宏吉(どひ・こうきち) 1973年東京都生まれ。97年一橋大学商学部卒業後、遠心分離機大手の巴工業に入社し海外営業に従事。2011年ドイツで太陽光関連企業を設立。12年に太陽光専門商社ESIを設立し、代表取締役に就任。

2016年の電力小売りの全面自由化を契機に、再生可能エネルギーの関連会社からも新電力会社が多く立ち上がりましたが、競争が過熱した結果、撤退された会社も少なくありません。とくに、大手電力会社が顧客を奪われまいと必死で電力料金単価を下げたので、小規模な新電力会社では太刀打ちできないという状況がありました。

しかしその後、太陽光発電のコスト低減が着々と進むと、再エネの競争力が高まっていきます。また、気候変動対策の観点から『RE100』に加盟する大手企業が増え、再エネ電力の需要が伸びていきました。その一方で、自然災害が頻発し、非常用電源になり得る分散型の再エネ電源のニーズが拡大します。企業がBCP(事業継続計画)対策を目的に太陽光発電設備や蓄電設備を導入するようになると、FIT売電単価の減額と相俟って、自家消費のマーケットが立ち上がり、PPA(電力売買契約)で再エネ電力を販売するモデルが成立するのです。

このPPAモデルは、電力系統網を使わずにオンサイトで直接電力を届ける仕組みゆえ、託送料が発生しません。うまく活用すれば、既存の電力より安く再エネ電力を供給できるのです。こうなると、再エネの付加価値は一気に向上します。気候変動対策になり得、非常用電源としても機能するうえ、電力代まで下がるのですから。今後は再エネを活用する新電力会社が増えるでしょうし、PPAモデルが法人を中心に広がる可能性もあります。

ただ、PPAモデルに関して、一般家庭に浸透するかどうかはまだ見えません。米国では急速に普及したようですが、ドイツでは現状それほど家庭に広がっていません。ドイツでは、高い電力代に対し、太陽光発電設備はもちろん、蓄電設備の価格も相対的に下がっていますから、太陽光発電設備と蓄電設備をセットで購入する世帯が多いのです。

事実、2020年のドイツにおける住宅用太陽光発電の導入量は約1GWで、12万件となる見込みですが、このうち6割以上の世帯に平均容量8kWhの蓄電設備が導入される見通しです。ドイツでは、蓄電設備も購入して再エネの自家消費率を高めることによって経済性を追求するという利用法が定着しているのです。

一方で、法人向けPPAモデルはドイツでも増える兆しが伺えます。ドイツの太陽光発電導入量は19年の3.9GWから20年は4.5GWに上昇するとの予測があり、この4.5GWのうち0.5GWが法人向けPPAモデルによるものとみられており、これが21年に1.5GW、22年には2GWへ拡大するとの推計まであります。

コロナ禍の経済停滞を再エネで回復させようという〝緑の回復(グリーンリカバリー)〟が提唱されていますから、企業に初期負担のかからないPPAモデルを後押しする機運が高まっているのかもしれません。

ともあれ、PPAモデルは、客先に設置する設備を事業者が所有するスキームです。資本力の乏しい中小企業ではなかなか取り組むことができないモデルです。資本の充実した有力企業やリース会社、金融機関などとの連携が鍵を握るように思います。

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