出始めた新事業構想 脱炭素先進地の矜持

地域資源で脱炭素化

高知・梼原の複合再エネ供給

自然豊かな高知県梼原町は、地域資源を活用して様々な再エネ電源で脱炭素化を進めている。町の取り組みに迫った。

人口3050人の高知県梼原町は、四万十川渓谷と急峻な山々に囲まれた自然豊かな町である。1999年に再生可能エネルギーの推進を町の基本計画に位置づけ、出力600kWの風力発電設備を2基設置してから、町は多様な再エネを導入してきた。2008年に木質ペレットの製造工場を設立し、09年には四万十川源流域に出力53kWの小水力発電所を整備。小水力発電所の電力は自営線を介して昼間は学校へ、夜間は町内の街路灯82基へ供給している。

そんな梼原町は、21年に50年までに二酸化炭素排出量ゼロを掲げる『ゼロカーボンシティ』を宣言。さらに地域新電力会社の設立や木質ペレットを活用したバイオマス発電事業の検討を始めた。そして22年4月に脱炭素先行地域に採択されたのであるが、これについて、梼原町森林づくり脱炭素推進課の石川智也副課長は、「梼原町では、系統の空き容量が不足し、新規の再エネの導入が困難な状況だった。様々な検討を進めていた時期に、脱炭素先行地域づくり事業の募集があり、計画を踏襲する形で応募した」と経緯を語る。

町の計画の柱は、延長9kmに及ぶ自営線を敷設し、既存の木質ペレット工場と、新設のバイオマス発電設備330kWなどを繋ぐ小規模電力網(マイクログリッド)の構築だ。24年10月に着工し、順次、設備導入を進めている。23年8月には既存の風力発電2基を撤去し、1990kWの風車1基を新設した。

そして24年1月に地域新電力会社、『ゆすはらエネルギー』を町の100%出資で設立。今後は同社が小規模電力網を運営しつつ、地域の再エネ発電所の電力供給を進めていく計画だ。

対象施設の年間電力消費量386万8306kWhに対し、既存と新規の太陽光発電設備を合わせて76万1479kWhを賄う。余剰分の17万5458kWhの余剰電力をゆすはらエネルギーが買取り、環境価値付きの電力として供給する。さらに小規模電力網内のバイオマス発電からはオフサイトPPA(電力売買契約)で247万5000kWhを供給し、加えて既存の風力発電や小水力発電、四国電力所有の水力発電の再エネ電力をゆすはらエネルギーが調達して供給する計画だ。

石川副課長は、「小規模電力網が稼働すれば脱炭素化の進捗率は8割を超えるだろう。ゆすはらエネルギーでは需給管理も内製化していく」と語る。

梼原町の強みは豊富な自然資源を背景に地域新電力会社を通じて既存発電設備を有効活用できる点であるが、課題もある。石川副課長は「小規模電力網の外の電力消費者との合意形成はこれからだ。再エネ電力への切り替えも家計の負担になれば、なかなか進まないだろう」と語る。

ともあれ、最終的なゴールは50年のゼロカーボンシティの実現であるが、これについて、石川副課長は、「具体的な道筋は描けていない。人手不足で余裕はなく、まずは脱炭素先行地域の事業達成に力を注ぐ」と率直に語る。人材や合意形成といった課題を抱えつつ、梼原町は脱炭素への歩みを進めている。

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