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長野県、太陽光発電所開発の条例案公表

10kW以上の開発厳格化へ

長野県はこのほど、太陽光発電所の開発に関する新たな条例の最終案をまとめた。許可制を導入するなど開発を厳格化し、不適切な開発行為を規制する方針だ。(本誌・土屋賢太)

長野県は、出力10‌kW以上の地上設置型の太陽光発電設備の新規開発を厳格化するため、2023年3月に『地域と調和した再生可能エネルギー事業の推進に関する専門委員会』を発足した。以後4回に亘って有識者と議論し、23年7月28日に条例案をまとめた。9月の県議会に提出する予定である。

案によると、県は、砂防指定地や土砂災害特別警戒区域などを『特定区域』とし、特定区域内の出力10‌kW以上の新規開発を許可制としつつ、防災上の観点から県の安全基準に満たない開発を禁止する。同区域外の開発についても、出力50‌kW以上は県への事前届出制とし、10‌kW以上50‌kW未満は市町村への事前届出制とするほか、傾斜30度以上の急傾斜地への設備の設置に際しては県の安全基準を守らなければならないなどの規制を設ける。

また、事業者には開発の進捗状況の報告を求めるほか、県内で過去に法例や条例に違反して処分を受けた者には一定期間、開発を許可しない方針も示した。

県は先駆けて『環境配慮基準』を設け、県内の市町村が関係法手続きを簡素化して再エネ開発を優遇する『促進区域』を定められるようにしたが、この促進区域の開発に対しても今回の条例は適用される。

長野県環境部環境政策課ゼロカーボン推進室の松本健企画幹兼課長補佐は、「22年4月時点で県内77市町村のうち71の市町村が太陽光発電所の開発に関する条例などを有しているが、各々異なっている。そこで県が広域的に基準を定めた。再エネの抑制ではなく、健全な再エネの普及に繋げたい」と話す。

とはいえ、今回の条例案が正式に決まっても、市町村が策定した条例は引き続き適用される模様だ。事実、長野県白馬村は23年7月1日に村域の9割にあたる区域で10‌kW以上の太陽光発電所の開発を禁止する条例を定め、県の条例よりも厳しい規制をかけているが、この規制を継続する方針である。

条例素案の意見公募では、再エネ事業者から「脱炭素社会へ向かうなか、なぜ太陽光発電を規制するのか」といった反対意見が20件あった。その一方で、「地域住民の理解を得るには、ある程度の規制はやむを得ない」(長野県内の太陽光関連企業の社長)との見解もある。

エネルギー政策に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授は、「計画段階から周辺の住民に情報を公開すれば、住民の理解が得やすくなる。再エネ事業者にとっても適切な施策だ。悪質な事業者を排除することで、健全な再エネの普及に繋がる」と私見を述べた。

今後、県は安全基準のマニュアルを作成し、24年4月までの条例化を目指す。環境配慮基準と今回の条例によって健全な形で再エネの普及を促し、30年までに地上設置型の太陽光発電設備を21年度比約1.6倍の1630MWへ増やす計画である。

ともあれ、太陽光発電所を規制する条例は、すでに宮城県、山形県、山梨県、兵庫県、和歌山県、岡山県と、計6県で施行されており、各地に広がりつつある。脱炭素社会の実現には、360GWに及ぶ太陽光発電を追加導入しなければならないという試算もあるだけに、地域共生は大きな課題になりそうだ。

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