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『促進区域』が限定的に

課題は地域の合意形成

市町村が再エネの導入を促す〝再エネ特区〟として『促進区域』を設定し始めた。ただ、建物の屋根上に限定するところが多い。脱炭素化に向け、課題が浮き彫りになった。(本誌・土屋賢太)

環境省は2022年4月、改正地球温暖化対策推進法を施行し、市町村に再生可能エネルギー設備の開発を促す『促進区域』の設定を努力義務として課した。再エネの導入における地域との合意形成が課題だっただけに、市町村の裁量で〝再エネ特区〟を設ける仕組みを導入したわけだ。

環境省大臣官房地域脱炭素政策調整担当参事官室の玉谷雄太参事官補佐は、「自治体は地域の合意のもと再エネを導入でき、再エネ事業者は環境影響評価などを簡素化できる。促進区域の設定は自治体と事業者の双方に利点がある」という。

ただ、現時点で促進区域を設定した市町村は少ない。環境省によると、23年10月時点で環境配慮基準を策定した都道府県は、岩手県や富山県、京都府、徳島県、福岡県など19府県で、促進区域を設定した自治体は、神奈川県小田原市や岐阜県恵那市、滋賀県米原市、島根県美郷町、佐賀県唐津市など12市町にとどまる。都道府県の環境配慮基準の策定を待つ市町村が多く、現在28市町村が環境省の『再エネ促進区域の設定等に向けたゾーニング支援事業』で準備を進めている状況だ。

一方、促進区域を定めた自治体にも課題はある。建物の屋根上や市有地にしか促進区域を設定しておらず、このままでは脱炭素化の実現が厳しいという問題だ。

実際、恵那市は、促進区域を建物の屋根上のみに限定した。理由として、恵那市水道環境部ゼロカーボン推進室の杉山昭夫副室長は、「18年に『恵那市太陽光発電設備設置に関する条例』を施行し、再エネ事業者による山林開発を抑制したためだ」という。恵那市によると、50年までに促進区域の建物の屋根に213MWの太陽光発電設備を導入し、6.2万tの二酸化炭素を削減する想定だが、恵那市の場合、50年までに二酸化炭素排出を30万t以上削減しなければならないのだ。新たな仕組みを講じる必要があるだろう。

徳島県阿南市も、促進区域を公共施設の屋根と市有地に限定した。促進区域に太陽光発電を4.3MW導入する計画だが、市は30年度までの二酸化炭素削減に向け、太陽光発電設備を72MW導入する計画を掲げている。これについて、阿南市市民部環境保全課の山口裕之課長補佐は、「促進区域の設定において地域の合意が課題だ。段階的に促進区域を拡げていきたい」と話す。

一方、富山市は、景観計画区域や浸水想定区域などを除き広域で促進区域を設けた。富山市環境政策課ゼロカーボン推進係の布尾和幸主査は、「県と連携し、促進区域を広域で設定できた」とし、「促進区域内では24年度以降、PPA(電力売買契約)事業者を公募し、太陽光発電の導入を進めていく」と語った。なお、促進区域内の再エネの導入量については現在調査中である。

環境省の玉谷参事官補佐は、「地域の環境に詳しい自治体が再エネの促進区域を設定するのには意義がある。地域住民との意見交換や説明会を増やすなどして再エネの普及拡大に繋げてほしい」と語る。

市町村が促進区域を限定せざるを得なかった背景には、地域住民との合意形成の課題がある。FITを活用した太陽光発電所の建設を巡り、事業者と地域住民の間でトラブルが絶えなかったことが、ここに来て大きな障壁となっているわけだ。どのようにすれば、再エネは〝市民権〟を得られるのか。行政任せではなく、再エネ業界全体で対策を講じる必要があるのではないか。

恵那市はすでに促進区域を設定している。写真は恵那電力が『恵那市養護老人ホーム恵光園』に設置した出力146kWの太陽光発電設備

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