市議会で6度見送りも 美作市長パネル税に意欲

2020.11.01

PVeye

 岡山県美作市が導入を検討している太陽光パネル税。市議会では6度に亘って見送りとなったが、萩原市長は導入に意欲的だ。一方で事業者からは根拠を求める声が上がる。(本誌・岡田浩一)

 地上に設置した太陽光パネルの面積1㎡あたり年間50円を少なくとも5年間発電事業者から徴収するという太陽光パネル税。岡山県美作市が新設を進めている。導入されれば、市内の出力10kW以上の地上設置型太陽光発電所は原則、既設の設備も含めて課税の対象となる。事業者は、低圧太陽光発電所1基あたり年間最大約1.5万円の税金を負担しなければならなくなる。
 パネル税の発案は、水防法の改正に伴い岡山県が災害想定を変更したことがきっかけだったらしい。県は2018年3月に吉野川流域における24時間の最大降雨量の想定を従来の3倍近い600㎜程まで修正し、美作市など4市町では防災対策を講じる必要が生じた。 その際、美作市は、雨天時に太陽光発電所からの落石が多いなどの事象から「太陽光発電所は流下能力に対する負荷をかけている」(萩原誠司市長)と判断したようだ。ただ、事業者に対策を求めるのは非現実的として、「市が防災工事を実施し、費用を事業者に負担してもらう」(萩原市長)というパネル税の導入を検討したという。
 市は、パネル税を条例で新設できる法定外目的税として導入するつもりだ。実現すれば、年間約1億円、向こう5年で約5億円の税収が見込める模様で、徴収した税収を治水対策など太陽光発電事業によって発生し得る防災対策費や環境調査などに充てる構えである。ただ、パネル税案は市議会を通過しておらず、まだ成立していない。
 市は19年6月の市議会に議案を提出したが、必要資料が集まらず議論が深まっていないという理由から継続審査となり、19年9月、12月、20年3月の市議会でも、事業者からの質問に対する市の回答が遅れたために意見書が間に合わないといった経緯などもあって見送られた。
 一方で市は総務省から小規模事業者にも情報を提供するよう指摘され、事業者や市民への意見交換の場を設けたが、コロナ禍で機会を失い、20年6月の市議会では廃案に。9月には田であった土地に設置された低圧太陽光発電所を課税対象から外すなど内容を修正して再度臨んだが、いまなお継続審査中である。
 それでも、萩原市長はパネル税案の導入に意欲を示し、「審査に時間がかかっているが、(パネル税案に対して市議会議員の)賛成意見は多い」と語るのだ。

「法的・科学的根拠を」

 この状況を事業者はどう見ているのか。たとえば、美作市内で2ヵ所、計300MWのメガソーラーを運営するパシフィコ・エナジーは、パネル税が導入されると、毎年約8700万円の税金を徴収されかねない。事後的な課税ゆえ、借入金の返済や事業計画に少なからず影響が出るはずだ。同社の松尾大樹社長は、「当社は、作東で地元の要望を聞き入れ調整池の容量を合計で県基準の1.8倍にし、市と事前に実施協定を結び、県からは林地開発許可や県土保全条例の開発許可を得た。必要な手続きはすべて行ったが、事業開始後に、水防法改正という直接因果関係のない事由を元に新たな基準を作るのは不適切ではないか。水防法は『避難警報を出さないといけない基準』で、事業者として遵守せねばならぬ防災基準には一切影響ないと県にも確認済みだ」という。
 つまり、同社が岡山県から得た防災に係る許認可は、県の避難に係る基準の変更による影響を受けないのではないかという疑問であろう。
 ただ少なくとも、岡山県県民生活部中山間・地域振興課は、「(仮に開発許可における防災対策の技術基準が後に変わっても)許可を出した時点の技術要件が適用される。原則、過去に遡及することはない」としている。
 では市はどうか。もっとも、市は、林地開発許可は不要と国が判断した地上設置型の低圧太陽光発電所まで原則パネル税の対象にするつもりである。「たとえ小規模でも一部を除き太陽光発電所の建設は少なからず環境に負荷をかけている」(萩原市長)と見るからだが、ならば、その根拠を具体的に示してほしいというのが事業者の要望だ。
 実際、太陽光発電協会が20年9月にパネル税に関して事業者に調査を行うと、「パネル税の詳細について納得のいく説明をしてほしい」という意見が多く挙がった。パシフィコ・エナジーの松尾社長も、「太陽光発電所の運営による環境負荷が財政需要を生んでいるならば、その科学的根拠を示してほしい」と訴える。
 むろん、一定の科学的根拠がないなかで市がパネル税を導入することなど決してないはずだ。そのようなことをすれば、パネル税はお門違いの税制となるばかりか、市は不当に税を徴収するというあるまじき行為に手を染めることになる。
 ともあれ、このパネル税の一件に関しては、市が事業者に説明し、意見を伺うよりも、信憑性のあるエビデンスをまず提示するべきではないだろうか。

「パネル税の目的は防災」岡山県美作市 萩原誠司市長
なぜ太陽光パネル税を導入するのか。美作市長に聞いた。

── パネル税導入の経緯は?
作東で建設予定だった大型メガソーラーに関しては、調整池の設置を含む水防工事などの安全性を確認し、発電事業者と実施協定を結んだ。しかしその後に水防法の改正に伴い、岡山県が防災上の重要事項である災害想定を変更した。吉野川流域における24時間の最大降雨量の想定を、従来の200㎜程から600㎜程へ大きく修正したのだ。発電事業者が600㎜に耐え得る設計にし直すには追加投資が必要で、現実的ではない。そこで市が代わりに防災工事を手掛けるので、費用を事業者に負担してもらうというパネル税の発案に至った。

── 集めた税金をどう使う?
治水対策や内外排水対策、避難場所移転、消防施設移転などである。いずれも太陽光発電所の建設に伴って必要となる環境対策事業だ。すべてリストにまとめて公表している。

── 過去に建設したものも含めて出力10 kW以上の地上設置型太陽光発電所をすべて対象としたのはなぜか。
県が後から災害想定を変え、それに対して市として新しい防災対策を講じる必要があったからだ。小規模な太陽光発電所は明らかに危険だと分かるものも多い。実際、雨天時に発電所から落石があって、道路に石が転がり危険だという報告もある。雨天時の落石は水が流れている証拠で、流下能力に対する負荷をかけているということ。小規模でも太陽光発電所の建設は少なからず環境へ負荷をかけているのだから、市の防災対策の一部を負担してくださいということである。ただし小規模で田に設置した発電所など、環境への負荷がないと思われるものは除外する案に修正した。

── 発電事業者の意見は?
県外の発電事業者はほぼ全員が反対している。ただ県内の事業者は何割かの人が賛成している。市内に住む人は水害への意識がある。

── 市議会議員の意見は?
賛成意見が多い。太陽光発電の危険性を認識しているからだろう。だが、今回初めてのことだから、丁寧なプロセスを踏んで決めたいということだろう。審査に時間がかかっている。

── パネル税が導入されれば、先行事例となって他の自治体にも広がりそうだが。
想定される最大降雨量が200㎜から600㎜に変わったのはかなりのレアケースだ。岡山県内でも市では美作市だけ。我々が導入したからといって、他の自治体が導入するのは難しいだろう。

── 再エネの主力電源化という国の政策と逆行しないか。
市は太陽光発電に反対ではない。安全にやって欲しいということである。防災対策について事業者が個別にするよりも、市が工事をする方が国の補助なども活用でき、結果、事業者の負担を減らすことになる。

── 発電事業者との対話は?小規模事業者などまだまだ情報を提供する必要がある。順次個別に説明し、意見を聞いている。

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